紙には、用途に応じて変幻自在に変わる素材の価値としての「機能美」があります。
--ビジネスとして印刷や製本とは切っても切れないと思いますが。
竹尾は、流通業で紙問屋。素材提供企業とも言っています。それから、今は提供するのは「もの」から「こと」へとも考えています。
紙卸業は印刷、製本業界と同じビジネスサイクルの中の一工程なんですね。提供しているのは紙ですが、このビジネスサイクルのなかで「紙」は工業部品、マテリアル、素材だという意識を思っています。精密工業部品。その工業製品にはいろいろな機能を満載しています。いまではあたり前のごとく、上質だ、コートだ、ファインペーパーだといいますが、これは機能を考えつくしてできた製品なんです。ビジネスサイクルの中では皆さんそれを「素材」として求めていらっしゃる。私共はお客さんが欲しい部品のつなぎ役というわけです。
部品というと、一般的には役割が固定的ですが、紙の場合は使われる場面によって果たす役割がいろいろ変わってくる。そこが面白いと思います。何かそういう、用途に応じたいろいろな、変幻自在の素材としての価値みたいなものが「機能美」だと思っています。
例えば本でも、さっと開いたときに開きがよくて、しなやかにとか、ここは強度が欲しいから硬くとか、用途によって必要な部品が変わってくるじゃないですか。でも、役割が違っても部品は全て「紙」なんです。組み立てる専門家が注文される必要な紙を、指示通りにお届けするというのが問屋の存在価値。それも大事な役目でここが私たちの仕事の大半をしめています。
--その注文通りに必要な紙を届けるという業務を考えた時に、竹尾さんというと一番に思いつくのが「ミニサンプル」ですよね。あのシステムは画期的なビジネスモデルだと思うのですが、ホームページを拝見しましたら、1970年ごろからはじめられているようですね。
はい。3代目の社長のときにシステムセールスという形が生まれました。
紙を注文する時に、「色」って電話で注文できます?一口に「赤」と言われても、それぞれの思う「赤」が同じ赤とは限らない。ところが標準品の見本帳があれば、それを元に電話でも間違いなく同じ「赤」を確認し注文できる。また、紙は触ってこそわかると私は思っています、見本帳があれば実際に見て触れて紙を選んでいただくことができます。見本帳にある紙は、必ず在庫としてありますし、ミニサンプルには対応する価格表も用意されています。ですからミニサンプルで紙を選んで価格表で値段を確認して、電話で注文いただくことができるというわけです。このスタイルがもう50年以上前にスタートしました。
ミニサンプルも、今のこのスタイルになるまで、何度も改訂し、改良してまいりました。このミニサンプルを作るのは大変なんですよ。3、4年かかるんです。パッケージデザイナー含め一流の方に考えて作っていただいているんです。確かに通常の紙商からは考えられない販売促進、販売宣伝費を使っていますけど、いまでこそコスト優先となることもありますが、ミニサンプルがあることでデザイナーさんからの紙の指名で、発注いただけることがやはり多いんですね。印刷会社さんの提案よりも、デザイナーさんの指定の方が断然力が強いんですよ(笑)。
そうですね、例えばデザインとか、印刷とかから、こういう紙があるといいな・・・というご要望があって、市場のさまざまな要望を、ひとつ商業ベースに乗るか、乗らないかという判断も含めて、やはりマーケットから吸い上げていくという機能が竹尾の特徴かもしれないですね。要するに「マーケットアウト」というものが。マーケットで何が求められているか、そういうものはつかみにいけば必ずあるわけですよね。でも量にならないから、ちょっとチャレンジングだからと皆さんやらない。もったいないじゃないですか。マーケットアウトの情報の中で、ニーズに対応するのは当たり前、ウオンツも当たり前、シーズを私どもがメーカーに翻訳をして伝え、それをメーカーの製造サイドと技術者と相談をしながら新しい紙を作っていく。それを「プロダクトイン」とこう言う。ちょっと偉そうなことを言っていますけれど。普通に言う「プロダクトアウト、マーケットイン」とは思考のサイクルが異なります。
さらに、こういう紙を素材にこう使うと、こんなことができるということを見せるのが「ペーパーショウ」です。もう50年近く続いています。新しい紙をつくるだけでなく、使い方まで提案するというのも私たちの仕事と思っています。マーケットを広げるためには必要なことではないかと思うんです。市場のないところに製品を作っているわけですからね。このペーパーショウにはデザイナーさん、印刷会社さん、製本会社さんにもいろいろと協力いただいています。われわれで紙の価値を伝えていかなくてはならないのです。
マーケットアウト、プロダクトインで作った製品は、本社、青山、大阪にある実店舗「見本帖」で、広くご覧いただき、お買い求めいただけるようになっています。ここには市場に出ている製品を全て置いてあります。デザイナーさん、印刷会社さん、製本会社さんといったこの業界のひとだけでなく、一般の企業の方がこういうモノを作りたいんだけどと相談にお見えになることもあるんです。やはり、見てもらうというのは重要だと実感しますね。